野生の生薬の乱獲 植物編

 

植物でも需要が急増している種、特に麻黄や甘草のように需要が大きく野生種に頼っている生薬は、大きな問題となっています。
 

オタネニンジン(高麗人参)のように、かつての貴重品が栽培に成功し、量産できるようになった例や積極的に人工栽培に切り替える試みをしている企業もありますが、それでもやはり野生種が好まれているのは事実です。
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オタネニンジンは、中国北東部から朝鮮半島北部、ロシア極東南部原産です。

今は、野生種は乱獲によって非常に少なくなり、貴重品とされています。

昔から、オタネニンジンは高貴な秘薬・不老長寿の薬として知られ、高価であり簡単に手に入るものではありませんでした。
 

江戸時代の日本でも、病を治すために借金をして高価なオタネニンジンを使い、返済に困り首を吊るといった記述まであるほどの貴重品でした。

オタネニンジンの価格は明治15年頃に一度暴落します。

これは生産過剰と西洋医学の発展してきた時期と一致しています。

しかし、明治の末期から大正にかけて価格は再び高騰し、高いものになりました。
 

今でも、中国の東北地方、朝鮮半島、ロシア極東には、稀に野生のものが発見されます。

野生物は、香港などで「野参」「野山参」などと称し、桐の箱に入れて、非常に高価で売買され、一本数百万円という価格がつくものもあります。

これらの価格高騰から、さらに野生種を根絶やしにさせてしまうことになります。見つけ次第、引き抜かれてしまうからです。

 

人工栽培に成功したのは、日本です。

江戸幕府の八代将軍徳川吉宗が、

対馬藩田村藍水らに命じて日光の御薬園において試植。

享保14年(1729年)に世界で初めて御種人参の栽培に成功しました。

その後各地の大名に種を分け、財源確保のために栽培を奨励したことに由来すると伝えられています。

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一般的に野生種は栽培種よりも薬効がいいと経験的に言われています

これは温度や湿度、雨の質、高度、土、環境などによる差だと言われています。

 

実際に、例えば
セファランドラ・インディカなどのように野生種では薬効があり、栽培種にすると薬効が無くなってしまう例も確認されています。

またアシュワガンダの根などのように、野生種と栽培種で形態学的な相違が出てしまうことが証明されたものもあります。
 

また同じ野生種でも、産地によって気候や土壌の違いがありますので、
薬効は微妙に変わってきます。

例えば
ゴールデンシールはアメリカ産よりもカナダ産が好まれるという好みもあります。

セイヨウニンジンは、アメリカ北東部からカナダ南部の森林地帯に生育していますが、中でもウィスコンシン州産のものは良品が多いと言われています。

そんなに違うかと疑問の方でも、食べ物に置き換えて考えるとわかりやすいと思います。
グルメの人には、〇〇産の〇〇というのはよく聞く言葉です。 
生薬も、やはり産地によるこだわりがあるのです。 

 

また薬用に適した採取時期も、野生種と栽培種では異なります。

例えば、

オタネニンジンを例にすると、

野生品は、6-9月に根を慎重に掘り起こします。

栽培品は、一般的には9月下旬から10月上旬に採取されます。

 

さらに近年では栽培種の農薬の問題も取り沙汰されています。

2004年に行った厚生労働省の研究班の調査では、

漢方薬の生薬121サンプルを対象に調べた結果、
56の生薬から残留農薬が検出されています。

これは当時の新聞でも取り上げられ話題になりました。

さらに調査で、農薬が使われやすい果実や葉を生薬とする11品種を対象にした有機塩素系農薬の残留農薬を調べた結果では、

基準値を上回るDDTBHC、ピレスロイド系農薬、有機リン系農薬などが検出されています。

この農薬問題は野生種ではなかったことですが、

栽培種で漢方薬のような大量生産が必要なものでは、無農薬が難しいのが現状なようです。

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野生種の乱獲は医薬品に限らずあらゆる分野で見られます。

食材などは流行に応じて栽培種がないものは乱獲されますし、

高級家具や楽器などもマホガニーをめぐるトラブルなどは大きな社会問題にもなっています。

 

高級楽器には、
最高の音質を求めて
常に最高の品質の材料が求められるあまり、
アフリカンブラックウッドやマホガニー、黒檀など約70種類の楽器の原材料となる貴重な樹木が次々と伐採され、絶滅危惧種となってしまいました。
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現在では植物を保護するためにグローバルツリーキャンペーンで立ち上げたFauna & Flora International 国際野生生物機関のSoundWoodプログラムが中心になって、
楽器の原材料となる樹木の保全管理できるように、保護活動や教育活動を行っているようです。
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私たち消費者が知らないことはまだまだ多くあります。

たとえば
マホガニーは
先進国で人気があり膨大な利益となるために、
伐採業者は飛行機で上空からマホガニーを探索し、
見つけ次第、
違法に森林を破壊していきます。
 

ブラジル政府の発表によると、少なく見積もってもマホガニーの70%以上は、略奪によるものです

非合法伐採に抗議した土地の所有者である多くの先住民は殺されました

これらの実態は、
グリーンピースが2001年に調査報告書「Partners in Mahogany Crime」を発表して初めて世間が知ることとなりました。

この報告書では、マホガニー・マフィアと世界の木材取引業者との関連の実態について詳細に調査がなされています。
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薬用植物が脚光を浴びている今、早急に、薬用植物の需要を満たしながら、自然を保護する法を整える必要があります。


各地で新しい品種の開発や研究、現地の野生品の採取に収入を頼る人々の救済も行われ始めています。
 

私たちは、日常生活で知らないうちに野生植物の恩恵を受け続けながら生活しています。

ですから野生植物の保護は、薬用植物を利用するすべての人々が自覚すべき問題だと思います。

 

自然の恵み、命の恵みは、いくら科学が発達しても人には作り出すことは出来ません。

 

葉っぱ一枚すら、最先端科学を結集しても作ることが出来ないのです。
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花びら一枚をみても、現代科学では作り出すことが不可能な精密さと機能、美しさ、そして高次の愛と至福のすべてを備えおり、宇宙の叡智を垣間見たような気持ちになります。

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わたしたちに出来ることは

自然界あらゆるものに敬意を払い、

出来る限り資源を無駄に使わないこと、

すべての生き物をあらゆる面から大切にすること

です。

 

インドの聖者ラマナ・マハリシ大師も、あらゆるもの、花や葉一枚まで大切にして、

アシュラムの木から果実を収穫する時でさえ、できるだけ優しく摘み取るようにと人々に述べています。
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これは誰にでもできること。


例えば、毎日いただくご飯もおかずも貴重な動植物の命をいただくのであり、身体を作る生薬です。
感謝して、残さずいただく。

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たった一人の小さな心がけでも、地球にはとても大きな貢献です。

 

今日もありがとうございます。
 


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