今日は猫の肥満 その2

猫の肥満と病気の話の続きです。

寿命
犬で示したように食事制限が寿命を長くするという研究は、犬や猿をはじめ、いくつもの動物種で報告されています(McCay et al.1935、Kealy et al.1992, 1997, 2000 2002. Larson et al. 2003、Lawler et al.2005)
猫での食事制限と寿命の関係を調べた研究報告はまだありませんが、たぶんそれは猫でも同様でしょう
肥満の猫の寿命が短くなることを示す研究報告はあります。

病気
猫では、肥満と病気の関連性はよく知られています。
特に皮膚疾患と糖尿病、関節疾患は、顕著に増加します。
この図は、緑が肥満ではない猫ピンクが肥満猫の病気の発生率です。
こんなにも違います。
img004dfssROYAL CANINより
 

他にも、消化器疾患、肝リピドーシス、腫瘍、尿路系疾患、口腔内疾患、循環器疾患の発病リスクが増加します。
あまりいいことはないのです。

猫の糖尿病は、人の2型糖尿病と病態が似ています。糖尿病にかかる猫のほとんどは、太り過ぎです。
猫では、経口投与の薬は効果が無いため、毎日のインスリン注射が必要になります。
最近多い病気の一つです。
diabetes_obesity_diabesity_tsh

肥満猫で最も怖い病気の一つが、肝リピドーシスです。命にかかわる、とても治療が大変な状態です。
猫の肝リピドーシスは、食欲不振から突然肝細胞内に過剰な脂肪が蓄積して肝細胞が正常に働かなくなり肝機能障害を生じる重篤な症候群です。
基礎疾患(ホルモンの異常、栄養過多、薬物、膵炎、IBD、胆管炎や糖尿病、肝臓の機能低下など)やストレスのかかる環境要因の急激な変化などがきっかけとなって発病します。
特に治療開始時には致死的な合併症が発生しやすく、重篤な状態になることがあります。治療は長期間に及ぶことがあります。
肝リピドーシスを防ぐには、普段から太らせないことしかありません。

猫の肥満で腫瘍との関連性が報告されているのものには、
腺癌、脂肪腫、リンパ腫、基底細胞癌、繊維肉腫、乳腺腫瘍、肥満細胞腫、扁平上皮癌などがあります。

尿路系疾患で一番多いものには、雄猫の下部尿路疾患がありますが、これも肥満の子ほど、重篤で治りが悪い傾向が見られます。

食欲のコントロール
健康な猫は、基本的に偏食せず、
自らが摂取する主要栄養素(蛋白質、脂質、炭水化物)の量を調節し、
本来は野生動物として自然環境で得るはずの獲物の栄養素に近いバランスで主要栄養素を摂る
ことがわかっています。

ところが肥満体の猫では、その食欲のコントロールがうまく調節できなくなります。
エネルギーバランスをコントロールするメカニズムには、多くの因子が複雑に絡み合っています。
食欲を調節する消化管ホルモンだけでも
グレリン
コレシストキニン
アミリン
グルカゴン様ペプチド1
PYY
アポリポ蛋白質A4
エンテロスタチン
ボンベシン
グルカゴン
胃ペプチン
などがあります。
これらの個別の作用については研究が進められていますが、
多用なホルモンが絡み合うとても複雑なメカニズムであることから、
全容を解明できないままの薬物治療はとても危険性を持っています。


難しい話はつまらないので、肥満の予防と減量の話に移りましょう。

猫の肥満PART1にも書きましたが、飼い主が猫を溺愛する猫人間の場合には
目的意識をしっかり保たないと、減量は困難です。

猫は、飼い主の気を引いたり餌を求めるなど要求がある時には、
通常のゴロゴロ音とは異なり、赤ちゃんの声に似た甘えるような高い周波数が含まれる音を発します。
猫はこの周波数を含ませて喉を鳴らせば人間を動かせることを知っています。
そして溺愛型の飼い主さんは、その甘い声にまんまとひっかかり、
餌やおやつをあげてしまうのです。
vermeer-the-milkmaid-cat-620


食べ放題にしてはいけませぬ。
食いしん坊の猫は、いくら食べても食べ過ぎたとは思わないのです。
Cat-dont-regrets
 
そこで
食事量を適正に守ると同時に 
1. 定期的に体重測定とBCSを記録する
2. 中年以降は体重増加に気をつける
3. 避妊去勢後には食欲と体重増加に注意する
4. 理想体重を維持する
が大切です。

当院では、犬の肥満と同様に
外科手術(脂肪吸引術やRoux-en-Y胃バイパス術など)はお勧めしません!
薬物治療(中枢性抗肥満薬や膵リパーゼ阻害薬、ミクロソームトリグリセリド転移蛋白阻害薬など)もお勧めしません。
薬物では5%程度の減量が可能ですが、
副作用が多く、未知の副作用の可能性もあり、
さらに 
薬剤中止後のリバウンドが報告されています。

まずは、食事管理と生活習慣の見直しが基本です。

猫は、一日のうちで最も多く時間を費やすのが「睡眠」です。14-18時間、つまり一日の60-75%は寝転がっています。
 fat-cat
そこで起きている時間の有効利用は、運動です。
猫は、本当は狩りをして食事を獲得する動物
太ると動きが鈍くなり、獲物を捕まえることは出来ません。
そこで獲物を獲るために動き続ける。
痩せて、筋肉量が増加する
獲物を捕まえる
というように、
本来は食生活と運動が均衡しているために、太れない生活のはずなのです。

ところが、今の猫は、獲物を獲る必要がない
筋肉がつくような運動も必要がない。
そのため、太りやすくなり、
太ると関節にも負担がかかり、
さらに動かなくなる。
すると除脂肪体組織は減少し、さらに基礎代謝が減り、
痩せなくなる。
という悪循環になるのです。
funny-cat-pictures-i-should-probably-exercise

 
運動には、いろいろなメリットがあります。
エネルギー消費の増大
脂肪の酸化を刺激
筋肉量の維持と基礎代謝量の増加
など。
猫には本能的に狩りの行動への欲求が一生続いてあります。
本当は遊び上手なのです。 

でも猫は、太ったからといって、突然自ら運動やヨガをはじめたりはしません。
funny-cat-picture-yoga-cats


猫が遊べるような環境を作りましょう。キャットタワーの設置などもお勧めです。
funny-pictures-cat-does-not-want-to-work-out_zps3c51642d
 
食べ物やトリーツを使って運動量を増加させましょう。
猫用おもちゃを使って一緒に遊びましょう。今は猫の遊び心を刺激する楽しいおもちゃがいろいろ市販されています。
手作りおもちゃもいいです。

習慣的に遊ぶようにするには、最初はほんの数分からでもかまいません
それを徐々に延長していくのです。
funny_cat_picture_60


次に一番大切な食事管理です。

食事管理で大切なのは、
できるだけ減量用フードを選ぶ。
給与量は理想体重に合わせる。
与えた量と食べた量を記録する
食事は、一日2-4回に分けて与える
食事以外の間食は与えない
家族全員で減量に気を配る

では、頑張ってもらいましょう。

でも・・・
専門書や報告を見ても、一番大変なのは、
愛猫を溺愛する飼い主さんのモチベーションを上げること。
と書かれています。
そう、太った猫ちゃんって、かわいいんです・・・。
だから、真剣に減量させようとはしないのです。
でも、太り過ぎはダメ。
funny-fat-cat-old-paintings-zarathustra-svetlana-petrova-1


今日もありがとうございます。
 
動物病院ランキングへ