X線検査をすると、よく胃の中に石が見つかることがあります。
たいてい、食いしん坊の犬たちです。
常習犯が多いのです。

これが石をたくさん食べたワンちゃんのお腹のX線写真です。

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真ん中の強い白い部分が石です。
色を塗ると、紫の部分が胃の中の石。

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犬の場合、胃の中に石があっても、いいことは全くありません


さて、
動物の中には、胃の中の石がとても大切な動物たちもいます。
胃石はアザラシ、アシカ、ワニ類、甲殻類、鳥類に一般的です。

例えば、
カニやサリガニなどの甲殻類。
これらの動物は、大きく成長する時に、脱皮をします。

脱皮した直後はふにゃふにゃですが、あっという間に甲羅が硬くなります。
脱皮の後の軟らかい無防備な甲羅が、急に硬くなるのは、
胃の中の胃石の働きも関係しています。


脱皮の約2週間前から、
甲羅中のカルシウム分が循環液中に再吸収されて、胃に集められます。
こうしてだんだん甲羅が脱カルシウム化により軟らかくなり、脱皮しやすくなるのです。

そして甲羅から取り出したカルシウム分は、胃の中で白く固く丸い結石にしてとっておきます。
脱皮の前後にだけ、胃の中に石を作るのです。
この胃石は、下側に胃壁に貼り付ける場所が形成されています。
これは脱皮の時に古い胃から新しい胃の中に抜け落ちます。
すると胃石のカルシウム分が溶け出して、新しい甲羅に吸収されていきます。
通常の動物のカルシウムは結晶化した状態で存在するのですが、
胃石を形成しているカルシウムは直ちに新しい甲羅に利用できるよう、
簡単に溶けだせる特殊な構造をしているのです。


胃石の主な成分は、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、キチン質、そして各種胃石タンパク質などがあります。
胃石には、まだ未解明の役割があると言われています。
特に、
各種胃石タンパク質は、さまざまなことに応用できる宝の山ともいわれています。



この胃石は、人の薬としても珍重されてきました。 
マンシュウザリガニなどの胃石は、
「蝲蛄石」(らっこせき)、「オクリカンキリ」
と呼ばれて
切傷の出血、小児の骨軟骨の発育不良、みぞおちの痛み、胃酸過多や胃痛、下痢、破傷風や結核の治療薬として使われていました。
西洋でも狂犬病、ペスト、消化器疾患、水腫に効果があるとされ、
また、丸のままで、虫歯の詰め物としても使われていました。
 
オクリカンキリの名は、ラテン語のoculi(眼)とcancri(蟹)に由来しています。
下図の左下の二個がオクリカンキリです。
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ここからしばらくはメモなので、飛ばしてください。
「日本史」を執筆し、織田信長にカトリックの布教を許されたポルトガル人ルイス・フロイスによると、当時日本を訪れる神父などの宣教師たちはオクリカンキリや馬糞石(後述)などを携行し、胃腸疾患や胃痙攣などの消化器疾患に用いていたと記録されています。
1744年には、江戸幕府の第8代将軍である徳川吉宗が、オクリカンキリを2ポンド発注しています。1844年になると、496kgのオクリカンキリが輸入された記録が残されています。
1695年に「本朝食鑑」には、「多豆久和」というエビの頭の中にあるオクリカンキリという石が効果がある。長崎では「石淋石」と称され、高値で取引されている。このエビは、おそらくシャクナゲエビかシヤクカエビらしい。」などの記述が見られます。
1788年「奥民図彙」(おうみんずい)の中には、津軽藩内に生息する「サリカニ(退蟹)」の図が描かれており、「頭上石アリ、ヲクリカンキリ」との記述がなされています。
「蘭方樞機」(1816年)の中には、「蝲蛄爪(石)」の代替生薬として「鶏卵殻」があると記載されています。それだけ高価だったか、入手が難しかったのでしょう。
長崎の医師シーボルトも、この石を好んで処方していたようです。

こちらは昔のオクリカンキリの薬瓶です。
Hamburg_Museum_2010-568-5Wikimedia Commons


オランダ人医学者A・F・ボードウィン博士の処方を参考にして守田治兵衛が文久2年(1862年)に作った寶丹(ほうたん)には、成分の一つに「ヲクリカンキリ」が含まれていました。
この薬は、当時非常に売れて、現在でもその成分は変わりましたが、販売されています。
主な効能は、胃もたれ、はきけ(むかつき、嘔気、悪心)、二日酔、胸やけ、飲みすぎ、食べすぎ、嘔吐などとなっています。

似たような石成分を持つ水性動物の生薬には魚脳石があります。
これはニベ科キグチ属の海水魚であるフウセイやキグチ、ニベ科シログチ属のイシモチなどの頭骨中の耳石です。
イシモチという名は、この耳石があまりに大きいことに由来しますが、
テンジクダイ科にも同名の魚がいることから、最近はシログチと呼ばれるようになっています。
漢方では主に、泌尿器系疾患、尿路結石、中耳炎、慢性副鼻腔炎などの治療に用いられています。
ちなみに耳石は、硬骨魚では3個あり、内耳の別々の場所に存在しています。

fish_earfishdb.sinica.edu.tw/


動物の胃石の生薬でよく知られているものには、
「馬宝」(ばほう)や「騾宝」(らほう)があります。

馬宝は、馬の胃の中に出来た結石を乾燥したものです。
精神興奮状態や小児のひきつけ、炎症性の腫脹などの治療に用いられます。
騾宝は、ウマとロバの雑種の胃の中に形成された胃結石です。
主に、癲癇、吐血や鼻血などの出血、できものなどの治療に用いられます。

胃の結石では、ヤギ属の大きく太く後ろにまがった角を特徴とする野生の山羊であるアイベックスの胃結石も生薬とされています。
 
ちなみに馬の腸に出来た結石は、馬糞石、鮓荅(さとう)、ヘイサラバサラなどといい、ヨーロッパでは解毒の石として珍重されていました。
大きさは小さな石からボーリングの球の大きさまで様々で、
主な成分は、カルシウム、リン、マグネシウムなどが含まれています。
enterolithstoneswww.myfineequine.com

さて、話は戻って、
犬はいくら石を飲んでもいいことはありません。
冒頭のワンちゃんも常習犯で、毎日飲んでは、糞便と一緒に排泄しています。


でも、
私たちも、
石を飲み込むワンちゃんと似たようなことをしていないでしょうか?

日常生活を丁寧に振り返ると、結構無駄なことをしていることに気が付きます。

日常生活においても、
犬が石を飲み込むのと同等の不毛の行為をしていないか、
よく顧みて
心深く静かに、そして心を込めて行動するよう心がけたいものです。


今日もありがとうございます。
 
 
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