今日は
ネコモルビリウイルス(Feline morbillivirus:FeMV)に関するお話です。

獣医師の間ではよく知られているものの
まだ
一般の人にはあまり知られていないウイルス感染症です。
 

このウイルスは、
猫の最も多い病気である
慢性腎不全と関連があるのではないかと推測されています。


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ネコモルビリウイルスが属する
モルビリウイルス属
パラミクソウイルス科パラミクソウイルス亜科に属するRNAウイルスの1属です。

モルビリウイルス属のウイルスの多くは、
牛疫、
麻疹、
犬ジステンパー、
アザラシジステンパー
のように
高い伝染力を有する疾病を引き起こすことが知られています。



牛疫ウイルスは、
18世紀にヨーロッパ諸国で大流行し、
ヨーロッパの牛のほとんどがこのウイルスで死亡したと記録されています。

アザラシジステンパーウイルスは、
1988年に北海で流行して
17,000頭以上のアザラシが死亡しています。

犬ジステンパーウイルスは、
基本的に犬のウイルスですが、
宿主域がとても広く、
犬以外の多くの食肉目の動物や霊長類にまで感染を起こします。

犬ジステンパーウイルスは、
1994年にタンザニアの国立公園のライオンたちの間で流行し
1000頭以上が死亡しています。

2008年には、日本国内施設のカニクイザルたちに流行し
46頭が死亡しています。


このように
モルビリウイルスは多くの種に感染するのですが、

何故か
猫だけは
モルビリウイルス属を含むパラミクソウイルス科のウイルスの感染が
確認されていませんでした。



ライオンが感染し大量死した犬ジステンパーウイルスも
猫では
病気を引き起こした例は報告されたことがありません。


2012年になって
はじめて
猫の病気と関連するモルビリウイルスが発見されました。


それが、
ネコモルビリウイルス(FeMV)です。

MorbillivirusWikipedia



香港大学の研究チームが
香港の野良猫457匹から尿と直腸スワブ、血液を採取したところ、
12.3%に当たる56匹の猫から
ウイルス遺伝子の一部が検出されました。

中国本土の猫からは
16匹中1匹からウイルスが検出されました。

その後、
2013年には日本で
2015年にヨーロッパで、
2016年には米国で
発見されています。

これらの事実から
現在は世界中の猫に
すでにFeMVが拡がっていることを示しています。




FeMVウイルスが発見されたことで
次に
FeMVと病気の関連が調べられました。

まず
FeMVに感染している猫2匹の剖検が行われ、
さまざまな器官が調べられました。
その結果、
腎臓において
炎症性の細胞が見つかり
尿細管の変性と尿細管の壊死が確認されました。

さらに変性した尿細管上皮細胞では
コーキシンというタンパク質の発現が低下していました。

コーキシンの発現低下は
尿細管間質性腎炎に特徴的な所見です。

FeMVウイルスは
尿細管細胞で増殖していることが確認されました。

研究グループは
さらに27匹の猫を使い、
FeMVと腎臓疾患の関連を調べました。

12匹のFeMV感染猫では 7匹が尿細管間質性腎炎
15匹の未感染猫では、2匹が尿細管間質性腎炎
でした。


結果として
FeMVは
猫で最も多い慢性腎不全の原因となる尿細管間質性腎炎と
関連していることが判明しました。



日本でも
FeMVと尿細管間質性腎炎との関連を示唆する研究結果が出ています。




尿細管間質性腎炎は
慢性腎不全に繋がる疾患であるために

もしも
FeMV感染が慢性腎不全の原因だとしたら
このウイルスの発見は
とても大きなものとなります。

最近の研究では
すべての猫の50%
15歳以上の猫の81~90%
慢性腎不全と評価されています。


現在のところ
FeMVを予防する方法はありません。

感染経路も特定できていませんが、
口腔内にも直腸内にも尿中にも
ウイルスが検出されているので、
唾液や糞便、尿などから感染すると考えられています。

今後の研究報告によって
明らかになっていくことでしょう。



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