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今日はちょっとだけ専門的、統合医療従事者向けになります。
脂肪組織を組織標本で見てみると、きれいに抜けた網目模様が見えます。
これが脂肪細胞の間の結合組織でその網目状の中のひとつひとつに脂肪細胞が入っています。
脂肪細胞の核は、薄い膜に包まれて見えます。
その細胞の中身の構成成分のほとんどは脂肪です。
その細胞の中に丸い細胞細胞核が一つ存在します。
一般的には、肥満になるに従って、この1個1個の脂肪に蓄えられている脂肪の量が多くなります。
さらに肥満すると脂肪細胞にも脂肪を蓄える限度というものがありますから、細胞の数そのものが増えることもあるといわれています。
Anatomy box.comより転載脂肪組織の成長
豚さんを例にすると、
脂肪組織は、腎臓脂肪→筋肉間脂肪→皮下脂肪→筋肉内脂肪の順番で増加していきます。
成長による生体内の組織の発育は、脳-骨-筋肉-脂肪の順に進みます。
気温が30℃以上の環境で飼育をした豚の脂肪は、20℃の気温下での飼育と比較すると、脂肪が硬く、調理する時に溶け難いものになります。
食事の内容によって、脂肪組織の成分も変わります。
特に、豚は食事の内容によって、脂肪組織の組成も変化しやすい性質を持っています。
例えば、
豚は、サツマイモを飼料として与えることで豚の脂肪の融点が上昇し、不飽和脂肪酸含有量が減少することにより、食肉としての質が向上します。
ここからは、専門的になりますので、ご興味のある方はご覧ください。
豚脂
豚の脂は、中医学で「豚脂」、「猪脂膏」「猪脂」「猪膏」などと称し、治療に用いられてきました。
通常、匂いの少ないものが良品とされています。
皮膚のひび割れ、あかぎれ、便秘、咳嗽などの治療に用いられます。
主な中医学や漢方での豚脂配合薬には次のようなものがあります。
紫雲膏:皮膚のひび割れ、あかぎれ、霜焼け、魚の目、あせも、ただれ、外傷、火傷、痔核による疼痛、肛門裂傷、かぶれ
猪膏髪煎(猪膏・亂髪)::黄疸
左突膏;化膿性の腫物
その他にも豚は多くの部位が漢方薬に用いられています。
皮膚(猪膚)、胆嚢(猪胆)、胆汁(猪胆汁)、胆嚢結石(野猪黄)、肝臓(猪肝)、胃(猪肚)、大腸(猪腸)、蹄、爪、頭骨、精巣、膀胱、腎臓、心臓、肺、被毛、血液などがあります。
全身が生薬に使われてきた貴重な生き物なのです。
さらに豚さんは、古代から生薬として利用されてきました。
古代エジプトでは、発熱と咳を伴う疾患の治療に、豚の脂肪を、コムギ、ガチョウの脂肪と混ぜて夜露にさらした後で4日間食します。
このほかにも古代エジプトでは、豚の血液、糞、歯、内臓などが薬用に用いられていました。
ちなみに糞は勃起不全の治療に、歯は咳き止めなどに利用されていた記録が残されています。
世界各地に動物の脂を薬用にしている例は数多くありますが、
中でも古代エジプトでは、牛、猫、犬、ガゼル、ガチョウ、カバ、ダチョウ、トカゲ、ネズミ、ヘビ、ヤギ、ライオン、ロバなどの脂肪を薬用として治療に多用していた国でもあります。
牛脂
ウシの腹部大網膜の新鮮な脂肪組織を細切れにして、高圧缶に入れ、加熱蒸気を送って溶出し、精製した脂を生薬として利用します。その中でもよく使うものはギーです。
ギー
ギーは、動物の乳脂肪が主成分です。ウシやスイギュウ、ヤギなどの乳を加熱殺菌した後に乳酸発酵させて、
凝固したものをよく撹拌します。これを再度加熱、濾過して乳清を取り除きます。こうすることで、バターよりも腐敗しにくくなり、平均気温の高い地域において長期間、常温で保存することが出来るようになります。
インドのアーユルヴェーダの施術では、ギーをよく使います。ギーは体のバランスを整える作用から、消化器疾患の治療などにも適用されます。
肝油
主にマダラ、スケソウダラ、サメ類、深海魚類などの新鮮な肝臓と幽門垂から採取した脂肪油を冷却することにより、析出する固形の蝋分を取り除いたものを利用します。
局方では、1g中にビタミンAを2000-5000IU以上を有するものとされています。
古くから北欧諸国で薬とされてきましたが、1840年代には西ヨーロッパに広がり、栄養不良やくる病の治療に用いられました。
日本には、1869年にオランダの薬学者ゲールツによって、肝油、アカエイ肝油、鮫魚肝油などが紹介されています。
特にサメ類の肝油に多く含まれるリポ蛋白の一種であるスクワレンは、近年健康食品として注目されています。
スクアレンは体内で一部はトリテルペンに変換され、残りはラノステロールを経てコレステロールへと代謝されます。
健康食品で深海鮫としているものは、肝臓が大きくスクワレン含有量の比較的多い小型の鮫であるアイザメの利用が多いようです。
他の成分では、アルコキシグリセロールが免疫増強物質として研究されています。
肝油は、病中病後、小児、妊婦の滋養、ビタミンAやD欠乏症の治療と予防、風邪の予防、慢性疲労などに適用されます。肝油は、古くから世界各地の漁師を中心に万能薬のように滋養強壮や傷の治療、風邪の治療など様々な用途に利用されてきました。
魚油
上記の肝油同様、魚油も健康食品として人気があります。EPAやDHAなどのω-3系不飽和脂肪酸を豊富に含みます。受験生に人気があります。
海狗油(かいくゆ)
「本草綱目拾遺」(1765年)に収録されています。
ゴマフアザラシの脂肪から採った油です。
主な効能には、三焦の濁逆の気を治し、下痢を治め、腎の積寒、停飲を清めるとあります。外用としても用いられ、あかぎれや霜焼けに使われます。
現在アザラシ油の需要は広がり、野生動物保護の立場から2007年にベルギー政府は、EUで初めてアザラシ油を含むアザラシ製品の国内輸入禁止法令を作りました。
これに続くアザラシ製品輸入禁止の動きは、欧州各国で広がっています。
馬油
「名医別録」に馬油についての記述があります。
「本草綱目」には、馬油の効能として皮膚病治療や筋肉痙攣の緩和などが記載されています。
馬油の成分組成は、不飽和脂肪酸が65%であり、人間の脂肪に成分が似ています。
静菌作用や血行促進作用があることから様々な治療に用いられています。
馬油は、日本でよく使用されており、主に、創傷や火傷、打撲傷、各種皮膚疾患、関節炎、神経痛、虫歯痛、脱毛、虫さされ、口内炎、歯槽膿漏、舌炎、鼻炎、痔、肩こり、筋肉痛などの治療や毛髪や肌の美容目的にも用いられています。
羊毛脂
ラノリンは、ギリシア・ローマ時代からエシプスOsypusの名で知られており、薬用に利用されていました。
1880年代から、主に軟膏基材として用いられてきました。各国薬局方に収載されています。
皮膚に対する親和性、付着性、湿潤性に優れ、抱水性、乳化性に優れているために医薬品の軟膏などのほかにも、化粧品のクリーム、口紅などに使用されています。
エドガーケイシーは、医療や美容の基剤などにラノリンを含む処方がよく見られ、
リーディングや報告書など349件にラノリンの記載が残されています。
鹿脂
「本草綱目」に「鹿脂」の記載があります。シカ科のマンシュウアカジカやマンシュウジカなどが使われていたそうです。
鹿は、多くの部位が漢方薬として利用されていますが、
現在鹿で生薬として利用されている主なものには、
鹿茸、鹿角膠、鹿角、鹿鞭、鹿尾、鹿胎
などがあります。
虎脂
虎脂は、揚子江以南の中国に分布するアモイトラの脂肪を精製したものを生薬とします。
1950年代から60年代にかけて害獣として駆除対象とされて、多数が射殺されてしまいました。
現在では、絶滅の可能性が非常に高い種になっていますので、効能は記載しません。
世界中での推定生息数は1999年の調査報告書によると20頭前後しかいません。また、ジャワトラ、バリトラ、カスピトラは、すでに絶滅してしまいました。
アマイトラの他にもチョウセントラ、シベリアトラ、スマトラトラ、マレートラ、ベンガルトラが絶滅に瀕しています。
中国やタイでは、現在トラ牧場があり、観光施設になっていますが、
当初の設立の趣旨の一つに医薬品として野生のトラを使わずにトラの原料を入手するというものがあり、
将来的にトラの医薬品使用の再開を危惧する声も出ています。
駝脂(だし)
これはラクダ科のフタコブラクダの脂肪を生薬としたものです。
主に、瘙痒症、化膿性のできものや腫れ物などに外用します。
竹リュウ油
タケネズミの脂肪です。
主な効能には、解毒、排膿、創傷治癒促進、鎮痛作用などがあり、
主に、火傷や炎症性の腫脹などの治療に用いられます。
鵠油(こくゆ)
鵠油は、カモ科ハクチョウ亜科のオオハクチョウの脂肪を精製した油です。
この油は、清熱解毒、腫脹を治し、鎮痛作用があるとされています。
主に小児の慢性中耳炎の治療に用いられます。
淘鵝油(とうがゆ)
淘鵝油は、ペリカン目ペリカン科のハイイロペリカンの脂肪油です。
通常秋から冬に捕獲したものを使います。
淘鵝油は、化膿性のできもの、腫れ物、悪性のできもの、疼痛の治療などに用います。
蓑羽鶴油(サイウカクユ)
蓑羽鶴油は、ツル科のアネハヅルの脂肪を精製したものです。
秋に捕獲した個体から脂を採取します。
手の痺れや、皮膚のひび割れや肌荒れに外用薬として利用します。
灰雁油(かいがんゆ)
灰雁油は、カモ科のハイイロガンの脂肪を精製したものを生薬として使います。
冬から春にかけて捕獲します。
主に、筋肉のこわばり、脱毛、気・血の不足、化膿性の腫れ物やできものなどの治療に用いられます。
白鵝膏(はくがこう)
白鵝膏は、ガンカモ目ガンカモ科のガチョウの脂肪を精製した油です。
グースファットとして、料理にも使われます。
主に、手足の荒れや化膿性の腫れ物やできものの治療に用いられます。
海蛇油
これは、エラブウミヘビの脂肪を精製したももです。
エラブウミヘビは、体長1-2mで、主に沖縄から東南アジア、オーストラリアにかけての海域に生息しています。
沖縄では、イラブーと呼ばれています。
毒はハブの30倍と強いですが、攻撃性は少ない種です。
普段は海の中に生息していますが、産卵時には陸に上がります。
1匹から15g前後しか抽出できません。
主な成分には、リノール酸、リノレン酸、EPA、DHA、ビタミンA・D3・E、リン脂質類、各種ミネラル分などを含みます。
この栄養価から、滋養強壮薬や薬膳料理にも利用されています。
またこの脂をウミヘビ油針療法として経穴や痛みの強い部位に少しずつ注入する治療法もあります。
八目鰻油
これは、ヤツメウナギ科のヤツメウナギの油を精製したものです。
ヤツメウナギは、本当の眼が1対と、その後方に7対のエラ穴が一列に並んでいいます。
顎はなく、吸盤状になっています。鮭と同様に川で生まれ、海を回遊して、産卵のために生まれた川に戻ってきます。
ヤツメウナギは、民間薬として古くから利用されています。
1712年の「和漢三才図絵」の中に、「小児の疳の虫・眼疾を治す効があり」と記されています。
江戸時代、水戸光圀が藩医に命じて編集させた「救民妙薬」には、「雀目薬(夜盲症の薬)」として記載が見られます。
ビタミン類、特にビタミンAが豊富に含まれています。
現在でもサプリメントとして、夜盲症、眼精疲労、病中病後の滋養強壮などに用いられています。
鮪眼窩油
マグロの眼球の後方にある脂肪を精製した油です。DHAやビタミンDが多く含まれています。
DHAには、記憶力や学習能力の向上、視力低下抑制、認知症改善、血中脂質濃度低下、アレルギーの緩和、抗癌、抗糖尿病、血小板凝集抑制、血圧調節などの作用が認められています。
また、ビタミンDが豊富に含まれていることで、
骨粗鬆症や骨軟化症などの治療にも有効とされています。
無歯相手蟹脂
これは、イワガニ科のクロベンケイガニの脂肪を生薬としたものです。
外用薬として、湿疹、化膿性のできものや腫れ物などの治療に用いられます。
イルカ油
イルカ油は、カワイルカ科とマイルカ科に属するイルカ類から採取されます。
この油のために、多くのイルカが乱獲されてきました。
現在でも一部の地域において、イルカ油は皮膚の塗り薬や性欲増進薬として利用されています。
エミュー油
オーストラリアのダチョウに似たダチョウ目の鳥エミューの脂肪を精製したものです。
このDromaius属は、現存するエミューを除いて残りは絶滅してしまいました。
主に、抗菌、抗炎症、保湿、鎮痛、育毛促進、創傷治癒促進作用などが確認されています。
オーストラリアの先住民アボリジニが、火傷や外傷、筋肉痛、関節炎、皮膚病などの治療に用いてきました。
アボリジニは、エミューの皮を吊り下げてオイルを採取しました。
病人をエミューの皮で包んで日光の下で温めるという治療法もあります。
現代でも、筋肉を酷使した後のマッサージオイルとしても優れ、シドニーオリンピック陸上代表チームも使ったと言われています。
オーストリッチ油
ダチョウの脂肪から精製した油は、切傷や軽度の火傷の治療に使用されることがあります。
一般的には、手荒れなどの化粧品として使われることが多いです。
ミンク油
これはミンクの腹部の脂肪を精製したものを使います。
1頭のミンクから約3gが抽出されます。
このオイルは、化粧品の他、肌荒れや乾燥肌の治療の補助に用いられます。
卵油(卵黄油)
卵油は、鶏や烏骨鶏などの卵から作られます。
卵油は卵数十個をまとめて350℃-400℃で数時間煮詰め焦して上澄みを抽出します。
卵油には、リン脂質、ビタミンA、E、コレステロール、リノール酸などが含まれています。
卵油の歴史は古く、今から1400年前の奈良時代からの記録があり、当時は卵の精などと称し心の臓の薬として利用されてきました。
この卵油に多く含まれているリン脂質は、優れた乳化作用を持つために、初期の高脂血症の改善には特によいとされています。
現在では、健康食品として人気があります。また外用薬として痔の治療に使うこともあります。
卵油に含まれるリン脂質の成分の一つであるレシチンは、ホメオパシー薬として利用されています。
熊脂
「神農本草経」の上品に熊の脂肪の生薬「熊脂」が収録されています。
ツキノワグマやヒグマなどの背脂が用いられてきました。
日本では、ニホンツキノワグマやエゾヒグマなどのの背中の脂肪を精製したものが、少ないながら市販されています。
痺れや筋肉の硬直を解き、消化不良や、禿げ、皮膚病にも良く、滋養します。長く服用すると、意志が強くなり、身体が軽くなると言われています。
鯨油
これはマッコウクジラの頭部の油腔室の中にある鯨脳油を精製したものです。
シロナガスクジラ、ナガスクジラ、イワシクジラ、ニタリクジラ、ミンククジラ、クロコイワシクジラ等のヒゲクジラ類からとったものをナガス鯨油、
マッコウクジラ、ツチクジラ、ミナミツチクジラ等のハクジラ類からとったものをマッコウ鯨油
と呼んでいます。
さらに、オルカやシャチ、シロクジラなどの脂も使われることがあります。
脂を炉で煮出して作られますが、煮出しの時間は、クジラの種類や部位によって異なります。
ちなみに鯨油は、江戸時代には、稲作の最も被害の大きい害虫ウンカ(浮塵子、雲霞)の駆虫薬としても用いられていました。
ドイツ薬草学の祖と言われる中世ドイツのベネディクト会系女子修道院長ヒルデガルト・フォン・ビンゲンは、独特の方法で動物性脂肪を使った治療方法を提唱しています。
その中には、タカ、トビ、コウノトリ、ハゲワシ、メンフクロウ、豚、羊、クマ、オオカミ、リス、キツネ、テンなどの脂肪を各種疾患の治療に用いる方法を残しています。
まだまだ脂肪の生薬はたくさんあります。キリがないので、今回はこのへんにしましょう。
今日もありがとうございます。
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>参考文献&出典:
「ホメオパシー・マテリアメディカ大全」第一巻 森井啓二著 エンタプライズ出版
(このシリーズはプロ向け全20巻)出版途中で、出版社が倒産し、途中までしか出版されていません。








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